先日、ある効果が上がる販促物の勉強会で講師として話してきました。その後交流会があり、いろいろな方と会食をともにしたのですが、そこでぶっ飛びましたヨ。
売上高70億円ほどの地元の通信販売会社で、近年その売上高の伸び方が注目を浴びている優良企業の専務が、「うちは外注先や仕入れ先を接待してるよ」と言うのです。
うーん、通常は顧客を接待するのが常識なのに、商品を買ってあげている仕入れ先を接待するとは....。外注先や仕入れ先が、商品を買う側を接待することはあっても、買われる側が買う側から接待されるとは...。
一般消費者向け通販だから、個人である顧客を接待することはないとは言え...。
よーく考えてみると、この会社は極めて当たり前なことをやっているのだということに気が付きました。
接待をするというのは、すなわち、あなたと、今後も長いつきあいをしたい。その気持ちを表すために、食事の席を設けて、ともに楽しく語り合う場を作るわけです。他社には浮気せずに、ぜひ、当社と、よい関係を長期に渡って、良好に保っていきたい。そういうことです。
顧客に対しては、特に法人営業をしている会社では、もちろん私が経営している会社でも例外ではなく、お客様に対しては、ある程度きちんとした接待をして、良好な関係を維持しようとしています。
とはいえ、いくらお客様が見つかっても、商品を作って、納期通りにきちんと納めてくれる仕入れ先がなければ、お客様へ供給できません。お客様の確保ができた後は、今度は仕入れ先にきちんとした納品をしてもらわないと、お客様の信用を、落とすことになってしまいます。
業績の良い会社は、顧客の獲得の悩みはないので、既存顧客の維持とより高品質で、満足度の高い商品を作ってもらうために、仕入れ先を接待しなければならないことになるのです。
商品は、自社で製作している場合や、外注する場合など、色々ありますが、仮に自社ですべて生産しているとしても、原材料などは当然ながら仕入れ先からもってきてもらうことになります。と言うことは、顧客から注文を得た商品を、自社だけで原料・生産・納品までをすべてまかなうことは土台無理な話であって、どこかに必ず外注の手が必要になります。
単に、普通の商品を納めるのなら、当たり前の原料を当たり前に仕入れて、当たり前に作れば良いわけです。外注や、完成品を仕入れて持って行くにしても、仕入れ先さえ見つかれば、発注して納品されたら、それを顧客の元へ、納期通りに持っていくだけです。
しかし、他社よりも優れた商品を顧客に提供し、自社オリジナルの品質と満足度を提供しようとすると、話は変わってきます。
仮に、A工業という優秀なメーカーがあったとしましょう。あなたはB販売という、販売会社の販促担当者だとします。
このA工業は、極めて低コストで、品質の良い商品を作っているとしましょう。そして、その商品は、まだあまり市場では知られていないが、極めて高い満足度が得られる商品で、テスト販売したところ予想以上の注文数が取れたすごい商品であることを発見したとしましょう。
あなたは、そのA工業に、その商品を、同業者にも売って欲しいと思いますか?
同業者へは売って欲しくないですよね。せっかく新しい市場が取れる商品なのに、みすみす他社には渡したくないですよね。
でも、契約などで、A工業に縛りをかけない限り、A工業は少しでも販売量を多くしようと、B販売以外の販売先も当然ながら開拓するでしょう。
しかし、B販売からの扱いがかなりの量になっていると、B販売のライバル会社にはなかなか売りに行きにくいですね。すると、A工業は、その商品に関して、新規開拓に力を入れられず、その商品は、B販売専属品になります。
外注先とのやりとりが減ると、商品力が下がり、競争力が下がっていく危険が...
ここから先が、危険な領域です。
このメーカーは、その商品の製造と品質に関しては、一定のレベルをクリアしようとはするでしょうが、改良を加えたり、派生商品を作ろうという挑戦を行わなくなります。なぜなら、要請もないのにそのようなことをやって、もししくじったら、その商品の安定的販売先であるB販売を失うことになるからです。
冒険がなくなるとどうなるか。後発メーカーが、冒険してくるのです。より低価格、高品質な商品を出してきて、先発メーカーを追い落とそうとします。商品の魅力とは、常に他との相対的な比較の結果であって、絶対的なモノではないからです。
メーカーであるA工業には、自社の製品に、ライバルが出てきたという危機感が芽生えません。もちろん、発注量が減ればスグに分かりますが、発注量が減った理由が含まれた情報が入ってきません。直接消費者に対して、販売していないため、消費者が「最近はA工業の製品の魅力がなくなった」などといった情報が流れてこないためです。
A工業は、その製品の売上げが落ちており、改善をしたいと考えても、どこをどう改善したらよいのかが分からないので、手が出ません。
あなた自身も、メーカーではないので、改善しようと思っても、どうすれば良いのか分かりません。
販売会社とメーカーの関係として、情報の双方向の流通が途絶えていると、こうなってしまいがちです。重要な顧客の情報だから、メーカーには隠しておこうと、販売会社は考えがちです。販売会社側とメーカーが、商品をいっしょに作っていこうという発想がなければ、当然そうなります。今は仕入れてくれているメーカーだって、何かのきっかけで、来年はライバル会社に納品しているかもしれない。そうなったときのことを考えると、とても顧客の情報なんて渡せないし、ましてや、製品開発をいっしょにやるなんてことはムリ...。他によい商品が出てきたら、それを仕入れれば言いわけで、メーカーなんて、いくらでも見つかる....。
販売会社は、いつも「購買力」という力を持っているため、このような発想になりがちです。
そうしたことが長年続いてきた業界では、今、販売の落ち込みが激しいようです。デパート業界や、ダイエーなどの大型スーパーですね。こうした業界は、長い手形や10ヶ月くらいのサイトでの支払いなど当たり前だそうです。
ある福岡の老舗のデパートへの納品している知人の会社でも、専務がこぼしていました。長いつきあいなので、催事でたのまれると断れないそうですが、手あかがたくさんついたり、包装が破れたりなどした商品が、3ヶ月後に返品されるなどは当たり前。商品は委託販売で、売れた分だけ入金されるため、商品は手許にないのに、いつまでも売上げにならない。売れた商品の支払い日は不定で、長いときは10ヶ月後。入金があっても、どの商品の入金かどうか分からない。調べたいというと、自分で伝票をみて、調べてくれと言われて見に行っても、大量の伝票があるので、探すのが大変だった...。
そんな会社に製品を納入する会社は、全部がそうではないとは思いますが、他の販売ルートがないため、仕方なくて付き合っているのではないのか? そう思わされるくらい、このデパートの納入業者の扱いはひどいと思います。
現在では、そのデパートは名前こそそのままですが、店舗の場所も変わり、親会社も東京の大手の超有名百貨店になってしまいました。
商売のカギを握っている仕入れ先や外注先の優劣
巨額の有利子負債の返済で頭を痛めている某超大手スーパーも、数年前に、業者から受け取るリベートで決算対策をしていたことが、新聞にすっぱ抜かれましたね。こんな販売会社には、メーカーはたとえいい商品ができたとしても、真っ先に持っていこうという気にはならないですよね。どうせ持っていって、売れたとしても、入金が10ヶ月後。おまけに、委託販売で、いつ売れるか分からないし、売れたとしても入金日が確定しない。売れたかどうかも分からない。さらに、決算時にはリベートを別途要求される...。付き合うだけ、損ですね。
より取引条件のよい会社に、よい商品は流れていく。取引条件のわるい大手は、よい商品の確保がままならず、顧客の支持を少しずつ失っていくことになります。
我々中小は、リベートをメーカーに要請するなんて、とんでもありませんね。締め支払いで付き合ってくれているだけでもありがたい話なのに...。最初は前金とか言われるのがあたりまえですからね...。
リベートなんかよりも、より売れる商品と、売れる仕組みと、社員のモチベーションを高め、顧客の支持を高める。その方に力を注がない限り、大手には負けてしまいます。
リベートをくれるような会社と取り引きしようと思っても、第一向こうから取引量が少ないと、断られてしまいます。よーく考えてみると、我々中小零細企業は、仕入れ先を「接待」して、よりよい商品を開発してもらうほうが、商売としては理にかなっているような気がしてなりません。
●納入業者を「接待」すると...、まるで自社スタッフのように働いてくれるようになる!
納入業者を「接待」すると言うことは、この通販会社専務がおっしゃっていましたが、その業者のスタッフを、外部の社員であるにもかかわらず、自社の社員のように活用できるそうです。
ここがすばらしい。場合によっては、自社の社員以上に、良いアイデアを出してくれるかも知れません。なぜなら、いつも商品開発をやっているわけですから、商品の原料や製法については、販売会社の社員よりも、グーンと詳しいわけです。逆に教わって、詳しくなることもできます。
そして、その販売会社は、その商品の販売量について、目標を設定したとします。それもすごい高い数値を...。達成したら、ボーナスもあるということで...。
すると、どうでしょうか。販売会社社員のやる気に引きずられる形で、メーカー社員も、いっしょになって、目標達成に向かって、やる気になります。メーカーの担当者は、自分の成績が上がるわけですから、もう、販売会社と一心同体、あなたが儲かると私も儲かるという状態になります。
ここまで来れば、あとは、目標達成のために、何が必要かという会議をやり、出たアイデアを次々と実行していくだけです。メーカー担当も販売会社側も、自分のアイデアなら、自分で意欲を持って、責任を持って成し遂げようとしますから、熱気が違ってきます。販売の結果、1本で売るよりも、3本セットの方が、総売上高は上がった。では、1本おまけを付けて、3本分の値段で4本売ると、どうなるだろうか...。販売のデータを目の前にすれば、そのようなアイデアが出た時でも、結論がスグに出ますね。メーカー担当者も、売上げが総合的に伸びることが、成績アップにつながるのですから、できる限り協力することになります。
外注先の社員を、自社の社員のように使う。そして、他社にできないアイデアや製品の改良を加え、キャンペーンなどもいっしょになって考える。そうすると、販売会社の担当者1人のアイデアだけでなく、仕入れ先の社員全員を見方にして、戦うことができるのです。
つまり、優秀な外注先を手に入れるということは、他社に勝つための手段の一つとして、大変重要なことであると言えます。
しかし、条件があります。「接待したくなるほど、すばらしい外注先」であることです。変な外注先を接待して、何も変わらなくては、無駄金になります。「接待」したくなるほど優秀で、長期に渡ってつきあいが継続でき、他社との差別化に有効に作用する外注先。そして、外注先のスタッフや社員の心を一つにして,大きな目標に向かわせる人心掌握術。この2つを得ることで、今後の営業戦略にも、少なからぬ好影響をもたらしてくれるはずです。
それにしても、昔の戦国時代も、武器商人は大切に扱われていましたし、鉄砲のあるなしが勝負を決めた戦もありました。出入りの者を大切にし、新しい情報と武器を手に入れることは、昔も今も勝負の決め手です。
現代は忙しいのと、インターネットの普及のためか、営業マンが疎まれる雰囲気があります。しかし、なぜ、疎まれることになったのかを考えてみると、売る側が売ることだけを考えて、顔を会わせればスグに売り込みに入る営業マンが多くなったことが原因のように思うのは私だけでしょうか。
また、購入側も、何でも値引きや、相見積もりをとって一番安いところから仕入れば、もっともよい取引ができると考え、容易に値段だけで仕入業者を判断していないでしょうか?
実際は、商品そのものの仕入には、たとえば納期が守られるとか、納期が早いとか、支払い条件や営業マンがどれほど購入側の利益を考えて行動してくれるか、また、販売会社が社会に害のある行動を取っていないか、商品や商売に関する知識を提供してくれるかなど、取引とは商品のまわりにある、見えないものもいっしょに買うわけです。
そうしたものも含めて、取引先決定の要件にするというのは、今後の商売で他社に負けないためには、是非ともやるべきことだと思いますヨ。
(田上恭由執筆「商売繁盛デザイン研究所 ニュースレター」4号 2002年7月15日号より抜粋、加筆、要約」)