迎車の料金が無料なのも、当たり前になりました。
ある会社で、この初乗りの値引きを行ったところ、無線の呼び出し回数が2割も増えたそうです。
さて、この値引き競争、やっている意義があるのでしょうか? 私はかなり疑問を感じます。
流しのタクシーを捕まえる場面においても、駅の乗り場で乗るにしても、価格が安いモノを選んで乗る、というのは、極めて難しいです。目の前に止まったタクシーが、たまたま350円の初乗りの会社なら良いけど、走ってくるタクシーの値段を、手を挙げる前に判断するのは、まず困難です。
また、5,000円以上は3割引と書いてあっても、実際に5,000円以上もタクシーに乗る人なんて、どれほどいるのでしょうか? 東京や大阪ならいざ知らず、福岡なら、せいぜい3,000円〜5,000円。遠くまで乗る人なんて、一部の人や企業に決まっているのですから、せいぜい支払う金額が減って、喜んでいるだけでしょう。
それに、5,000円以上の遠距離料金が安くなるといって、「よし、今度遠くに行くときはタクシーにしよう!」などという人が出てくるのでしょうか? それもまず考えにくい。タクシーの場合、値引きによる需要の喚起は難しいと言わざるを得ません。
大学時代、アルバイトしていた中洲のジャズクラブで、来客の減少を少しでも食い止めようと、社長の指示のもと、店長が1800円のチャージを、1500円に下げたことがありました。しかし、厨房のマスターは、「300円下げるくらいなら、タバコの1箱でもサービスした方がよっぽど気が利いてるよ」と、怒っていました。
実際に、300円下げたからと行って、来客は増えなかったし、お客さんから感謝されるなどと行ったことは、一件もありませんでした。
まさに、この厨房のマスターの一言は、この価格競争の意味のなさを、表現しています。
値段を下げたって、お客さんに下げたことを知らせなければ、意味がないのです。それも、来店前にです。
300円のチャージが下がったからと言って、ジャズクラブに来るお客様のうち、喜ぶ方は、一体何人いるのでしょうか? まず、いないでしょう。300円安いからと言って、別の店に行くのをやめたり、真っ直ぐ帰ろうとしているサラリーマンたちの中に、「よし、今日はチャージが300円安くなったから、あのジャズの店に行こう」というお客様はいらっしゃるでしょうか? ジャズクラブに行く理由は、300円安いからではないですよね、決して。
そして、この厨房のマスターは、「常連のお客様に、「いつもおいでいただいている方へのサービスです。」と言って、いつも吸っている銘柄のタバコをプレゼントしたほうが、よっぽど気が利いてるよ」と言いました。
もしこれを本当に実施していたら、(タバコを吸っている客だけではありますが、)マスターの気遣いにお客様は感激したことでしょう。いみじくも、直接接客しない厨房のマスターの方が、顧客の気持ちをよく分かっていたのです。
先日乗ったタクシーは、小さなほっかいろ(使い捨てカイロのミニタイプ)をプレゼントしてくれました。寒い冬だと、うれしいですね。なんとも気が利いています。新聞や飴をおいているタクシーもあります。なんだか、そういう些細なオプションが、嬉しいじゃありませんか?
それを続けていると、そのうちに
「携帯番号教えてよ。中洲の帰りに呼ぶから」
という客が、一人、二人と出てくる。そして、その固定客が少しずつ溜まっていくと、ムリに流さなくても、そうした固定客のお陰で、1日の売上が5000円くらい上積みされ、付きの売上が5万円以上も変わってくる。福岡のタクシーの月間売上平均は30万円だか40万円だかと聞いてますが、5万円は10%以上になる。
値引きをしても客は増えず売上を落とします。300円が100人で3万円の減収です。
しかし、値引きの代わりに、些細なオプション(あめ1個で5円もしないでしょう。新聞を置くのだって、自分が読んだのを置いておけばいいので原価はゼロ)をすることで、長期的に固定客ができ、気がつくと、値引きした店と大きな差がつく。
繁盛店と貧乏店の違いは、本当に、こんな些細なところだったりするわけです。
(田上恭由執筆「商売繁盛デザイン研究所 ニュースレター」11号 2003年2月15日号より抜粋、加筆、要約)
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